筋トレで関節を動かす範囲のことを「可動域(レンジ)」といいます。
関節を全可動域にわたって動かすことを「フルレンジ」、部分的な可動域で動かすことを「パーシャルレンジ」といいます。
アームカールの場合、しっかり伸ばしたところ(0度)からしっかり曲げたところ(140度)まで行うとフルレンジ、部分的な可動域(たとえば50度から110度)で行うとパーシャルレンジになります。
フルレンジで筋力増強が促進される理由
これまで筋力増強の効果には、パーシャルレンジが有効とされてきました。なぜなら、パーシャルレンジはフルレンジよりも重い負荷量を挙げやすく、筋力を強化しやすいとされてきたからです。
なぜ、パーシャルレンジは重い負荷量を挙げやすいのかというと、そこには筋肉の「生体長」が関係しています。
筋肉には、力を発揮しやすい「筋肉の長さ」があります。筋肉を顕微鏡でのぞいてみると、アクチンとミオシンといった筋タンパク質のフィラメントがあり、これらがもっとも重なりあう筋肉の長さを「生体長」といいます。筋肉の長さが生体長の付近にあるとき、もっとも力を発揮することができます。
この筋肉の長さと力の関係を表したのが「力−長さ曲線」です。
ここからわかることは、筋肉が生体長に近い部分的な可動域であるパーシャルレンジでは、大きな筋力が発揮でき、フルレンジのような筋肉がもっとも縮み、伸ばされる場面では筋力が発揮しづらくなるということです。
例えば、アームカールでは肘をしっかり伸ばしたところから、しっかり曲げるフルレンジのトレーニングよりも、中間の角度で小さく動かすパーシャルレンジのトレーニングのほうがラクに感じると思います。なぜ、ラクに感じるのかというと、パーシャルレンジは生体長に近いからです。
そのため、パーシャルレンジはフルレンジよりも重い負荷量をあつかえ、高強度トレーニングによって神経適応を促進し、最大筋力を高められるとされていたのです。
しかし、今回のメタアナリシスの結果は真逆であり、パーシャルレンジよりもフルレンジで筋力増強の効果が高まることが示唆されました。
その要因とされるのが「スティッキング・ポイント」です。
スティッキング・ポイントとは「もっとも負荷がかかる位置」や「もっとも運動速度が低下する位置」などさまざま言われていますが、現在では「瞬間的な疲労が生じる位置」と定義されています(Kompf J, 2016)。
例えば、ベンチプレスでは、もっともバーベルを下げた位置から完全に持ち上げた位置までのフルレンジを100%とすると、0〜30%以内にスティッキング・ポイントが生じることが報告されています(Kompf J, 2016)。つまり、バーベルをもっとも下げた0%のところから30%持ち上げたところまでの間に瞬間的な疲労が生じる位置(スティッキング・ポイント)があるということです。
パーシャルレンジのトレーニングではスティッキング・ポイントを回避して行えてしまうが、フルレンジでトレーニングではスティッキング・ポイントを何度も経験することによって神経活動を適応させることができ、その結果として、筋力増強の効果を高めることができると推測しています。
これが現時点で、フルレンジが筋力増強の効果に有効である理由とされています。
◆ 高強度でのフルレンジのトレーニングには注意しよう!
しかしながら、フルレンジのトレーニングで注意したいのが「筋肉痛が生じやすい」という点です。
生体長に近く、筋力を発揮しやすいパーシャルレンジでは、筋損傷が生じにくくなりますが、生体長から遠く、筋力を発揮しづらいフルレンジでは、筋損傷が発生しやすく、筋肉痛も生じやすいことが報告されています(Baroni BM, 2017)。
筋肥大の効果は、1回のトレーニングの総負荷量によって決まります。総負荷量とは強度×回数×セット数の総量のことです。しかし、もっと大事なことは筋肥大の効果は「週単位の総負荷量」によって決まるということです。
週単位の総負荷量とは、1週間に行ったトレ−ニングの総量のことをいいます。週に1回のトレーニングの総負荷量が500kgだとしたら、同じトレーニングを週に2回行えば週単位の総負荷量は1000kg(500kg×2)となり、週に3回行えば1500kg(500kg×3)になります。
しかしながら、フルレンジのトレーニングで筋肉痛が生じてしまうと、次のトレーニングで十分なパフォーマンスが発揮できず、週単位の総負荷量を十分に増やすことができなくなってしまいます。
筋肥大を目的とする場合は、フルレンジは総負荷量を増やす有効な方法ですが、トレーニング強度を中強度などに抑え、その分、回数やセット数を高めることで総負荷量を増やすようにして、筋肉痛を回避することで結果的に週単位の総負荷量の増加につなげることができるでしょう。
筋力増強の効果においても、週の頻度を増やすことが有効になります。週の頻度を増やすことで筋力増強に必要な神経活動や代謝の適応を促進することができるからです。しかしながら、フルレンジで筋肉痛を生じさせてしまうと、週の頻度を増やすことができなくなります。
筋力増強を目的とする場合は、強度は高強度一択になるため、高強度でフルレンジを行うことがもっとも効果を高めますが、筋肉痛を回避するには疲労困憊まで行わずに、過度な筋損傷を発生させないように注意しましょう。
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